若い読者のための短編小説案内,村上春樹著,文春文庫,2004(1997)

吉行淳之介「水の畔り」

・1995年5月号の新潮で発表された短編.

・作者は前年に結核のため手術.

 

ここには構成的に弱い部分や,文章が薄くなっている部分が散見されます.p.42

構成的に弱い,強いとは具体的にどんな文章だろう?

 

すらりと周りに混じりきらずにダマになって残っているような,いささか居心地の悪い箇所も見受けられます.p.42

どんな箇所だろう?

 

そういう空気の出入りみたいな文章的融通 p.47

文章的融通.具体的にどこか言えるだろうか?

 

これは明らかに「技巧性」と「非技巧性」の葛藤ですね.それがものすごく明確に書かれている.いささか明確すぎるくらいに説明されている.p.53

何か明確な事実について書くときに,わざと明確さを失わせて,婉曲的に書くことにメリットはあるのだろうか?

 

「夜空に打ち上げた花火のように,その花火はすぐ消えてしまう.炸裂した瞬間の華やかさをそのまま持続させて行くことはできはしない.持続させるためにはその瞬間に身を滅ぼしてしまうよりほかはない,...それは彼の動かすことのできない考え方であった.火花が消えたあとの闇に耐えながら,明け方までの遠い路を改めて歩き始めるためには,今の彼には体力と気力が甚だしく不足していた」p.56

「水の畔り」からの抜粋.

この文章に対して,村上さんは以下のように述べる.

巧妙な小説技法とは言えない

なぜだろう?

内容は明確だ.つまり,技巧性の世界に生きていた主人公が,ある出来事をきっかけに,非技巧的?になるが,その変化は一瞬であり,すぐに技巧性の世界に戻ってしまう.再び非技巧的になるにしても,それは難しい.そういう内容だろうと思う.

p.53の村上さんの意見を考慮すると,明確な文章 ≠ 巧妙な小説技法 となると考えられる.よって,巧妙な小説技法=明確でない文章,であると考えられる.

では,明確な文章とは何か?自分が思うに,一意に意味が決まる文章だと思う.例えば,"夜空に打ち上げた花火"は明確だと思う.みんなが想像できる.

じゃあ,これを不明確にしたらどうなるだろう?例えば,"夜空に咲いた一輪の花"としよう.花火を花に例えたわけだ.でもこの場合だと,ほぼ全ての人が夜空に打ち上げられた花火を想像するだろう.つまり,まだ明確である.

では,もっと不明確にしてみよう.今度は夜空を変えてみたい.例えば,"真黒な空間に咲いた一輪の花",,,これなら不明確だ.元の意味を想像するのが難しい.ただ,不明確だが,これを巧妙な文章をいうのは難しいだろうと思う.なぜなら,意味不明だし,格好悪いから.

夜空に打ち上げられた花火,これをほかの巧妙な文章にして表すのは難しいだろうと思う.不明確にすれば,格好悪くなったり,意味不明になったりする.もっといい表現の仕方があるのかもしれないけれど,仮になかった場合,このフレーズを不明確にして,技巧的にするのは不可能ということになる.

従って,上の文章を技巧的にするには,夜空に打ち上げられた花火というフレーズではなく,ほかのフレーズ(明け方までの遠い路等)を変えるか,もしくは,非技巧的になる一瞬の変化を,花火という表現以外で表さなくてはいけない.

もう一度問うが,技巧的な文章技法とは何か?