「解剖学教室へようこそ」養老孟司,ちくま文庫,2004
第1章
解剖には種類があるという.
この人は,からだのどこの具合が悪かったのか.その結果,どういうことが起こり,なぜ死ぬことになったのか.それを調べるのを病理解剖という.(中略) 「ヒトのからだは,どんなふうにできているか」それを知る目的で行う解剖を,系統解剖という.
・病理解剖
・系統解剖
この他にも,死因が不明で,かつ犯罪の疑いがある場合に行われる司法解剖がある.
・司法解剖
ホルムアルデヒドで人体や細胞を固定するのは,腐敗せず,長く保存することに目的がある.では,なぜ腐敗するのだろうか?ということについて.
生物の細胞には,死んでしまうと,自分から壊れてしまう性質があることを知らなくてはならない.
固定とは,実際にはタンパク質の変性である.ということは,自分を壊すのはタンパク質ということだろう.何が自分を壊すのだろう?もう少し後で説明されるという.
解剖は”献体”で行われる.
生きているうちに「死んだら私のからだを解剖して,医学に役立ててください」と決めた人たちなのである.
これが献体.
第3章
解剖のはじまり
名前をつけるとは,どういうことか.ものを「切ること」である.P.59
人間のからだの一部に「頭」という名前をつけると,「頭でないところ」ができる.「頭」と「頭でないところ」の境界ができる.その境界は切れる.
ある場所に「アメリカ」という名前をつけ,またある場所に「カナダ」と名付けると,境界が生まれる.地面はずっと続いてるのに,切れてしまう.
ここで,名前をつけるのは,人間である.人間は言葉を使って名前をつけ,ものを切る.言葉を使えなければ,ものを切れない.サルは言葉を使えない(としよう).だから,サルはものを切れない.
「頭」という言葉を使えなければ,解剖ができない.ということは,言葉が使えれば,ものが切れるので,解剖ができる.
これが解剖のはじまり.なぜなら,ことばの中,すなわち頭の中で,からだがまず切れてしまうから,実際に「切る」ことになるのである.p.62
車というものができたおかげで,車を考えついたわけではない
頭のなかで「切れる」のと,実際に「切る」のとは,違うでしょうが.それは違う.でも,頭のなかで「切る」から,やがては実際に「切る」ことになる.頭の中で,車というものが考えられたから,やがて実際に車が作られるようになったのである.車というものができたおかげで,車を考えついたわけではない.新しい車を作るなら,まず設計図を引かなくてはならない.車ばかりではない.頭の中で家の設計図ができるから,家が建つ.人のからだを「ことばにしよう」とするから,解剖が始まるのである.なぜなら,ことばには「モノを切る」性質があるからである.
ここは,切られてできるものとして,
・車
・家
・解剖
があげられている.(全部人が作ったものだ)
ここに,ヒトを一緒にすると混乱が生じるだろう.頭の中で車というものが考えられたから,やがて実際に車が作られるようになったのなら,ヒトを考えたのは誰だろうと考えると,わからなくなる.だから,「人が作ったもの」と「人が作ってないもの」に分けて考えるのがいいだろうと思う.
何の役にたつか
解剖が始まった理由を,「何の役に立つか」で説明する.こうした説明は,とおりがいい.でも,それだけでは説明できないことがたくさんある.やがてそれに気づく.しかし,「何お役にたつか」.それを聞いて満足するのであれば,それでもいいのである.
でも,私は満足しない.なぜなら,何の役にたつかわからないもの,それはこの世界にはたくさんあるからである.例えば,うちの庭に転がっている,あの石.ひょっとすると,誰も見たことがないかもしれない,宇宙のかなたの小さな星.君自身は何の役に立っているのだろうか.だから「役に立つ」という説明ではない説明を,解剖についてやってみたのである.p.64
この文章のおかげで,僕はまた1つ自分を理解できたと思う.僕は,役に立つという説明ではない説明を,自分に対してやってみたい.(自分は何の役にたつのかという疑問は,多くの人が持つ疑問だろう.でも,はっきりというが,この疑問は愚かである.多くの人間は悩んでいるふりをしていると思う.なぜ僕がこう思うか.この説明を記事にしてみたいと思う.)
第5章
小さな,より下の,単位を,正しく並べる
人体は,何種類かの細胞でできている.その細胞を,正しい順序で並べれば,人体ができる.p.116
Dogという単語は,dとoとgの3つのアルファベットからなる.それが,dogと正しく並んで初めてdogという意味が取れるようになる.Dgoではダメで,odgでもダメ.これと同じように,異なる種類の細胞を正しく並べなくては,人体は理解できない.1つ1つのアルファベットを眺めていてもダメで,細胞1つを眺めているだけでもダメなのである.