「ゲノム編集とはなにか」山本卓著,ブルーバックス,2020

この本を読むことになった経緯

過去の試験にクリスパーキャス9をはじめとするゲノム編集技術が出題されていた.自分はその詳細を知らなかったので,この本を読んで勉強できればいいなと思った.

 

本を読む上で目的を設定するのは好きではないが,せっかくブログとして残すので,ひとつ目的を決めようと思う.

目的:クリスパーキャス9とはなにか?特に,何を目的として,どんなメカニズムを利用するのかを理解する.(第3章)

 

 

第1章のメモ
  • 原核生物のゲノムDNAはヒストンと結合しているの?

→ ヒストンは存在しない.

一方でコンデンシンが存在し,核様体の形成にそれが重要*1らしい.

 

 

イモリはがんにならないという性質がある p.24

なぜ?

 

最近,NGS解析装置の小型化も進んでいる.(中略)MinION(ミナイオン)はUSBメモリを少し大きくしたくらいの大きさで,パソコンに接続することで簡単に塩基配列が解読できる機器である.p.24

単純にすごいと思った笑.抽出液垂らすだけでOK?

 

DNAの二本鎖が切断された時の修復システムは,大きく3つの経路に分けられる.末端を保護し即座に結合する経路(NHEJ修復),切断箇所の両端にある短い相同配列を利用して修復する経路(マイクロホモロジー媒介末端結合:MMEJ修復),手本となる鋳型を利用して修復する経路(HR修復)がある.p.28-29

MMEJ修復知らない.切断箇所の両端にある短い相同配列とは?

ちなみに,後の2つは相同配列依存型修復(HDR修復)として括られるらしい.

 

遺伝子多型とは,対象生物集団の中に1%以上の頻度で出現する遺伝子型を示し,1%未満の稀に見られる変異とは異なる.

この定義は初めて知った.具体的にどんな遺伝子に多型が見られるのだろう?

 

第2章のメモ

ENU(Ethyl Nitrosourea)は,DNAの塩基をアルキル化する薬剤で,グアニン塩基がエチル化されて,塩基置換が誘導される.p.47

どういう反応?

 

ヒトのゲノムでは(中略)DNA型トランスポゾンは現在まで見つかっていない.これに対してレトロトランスポゾンと呼ばれる逆転写酵素を持つトランスポゾンは,ヒトにおいても移動することが知られている.p.52

ヒトに逆転写酵素あるの?

 

第3章のメモ

ZFNは,任意の塩基配列を編集できる第一世代のゲノム編集ツールとなった.p67

長いので要約.

一般的な制限酵素はDNA結合ドメインと切断ドメインが近接していて分離が困難.

制限酵素FokⅠは2つのドメインが離れていて,分離可能だった.

→FokⅠの切断ドメインとzinc-finger(ZF)を融合させて特定の配列を認識する人工制限酵素を作った.ZFN: Zinc finger nucleaseの開発.1996年.

1つのZFドメインは3塩基を認識する.ZFを複数連結してZFNを作成できる.また,ZFNは二量体として働く.

したがって,3個のZFを持つZFNを使えば,3*3*2=18 塩基の特異性を持たせることができる.これは理論上約700億塩基に1箇所現れる配列である.ヒトゲノムは31億塩基対なので,ゲノム中に1箇所だけDSBを誘導できる.

 

ZFNを使った二本鎖DNA切断の導入は,(中略)広く利用されるには至らなかった.p.68

理由は,

・作成課程が煩雑

・作成にかかる費用が高い

・ZFの認識配列がGNN(Nは任意)であり,標的配列を制限なしに選ぶことが難しい.

 

→テールタンパク質とFokⅠ切断ドメインからなるTALENの開発. 2010年.

→CRISPER-Cas9の開発. 2012年.

 

クリスパー・キャス9とは?

目的:遺伝子のノックアウト,もしくはノックイン

カニズム:標的DNA配列を認識するガイドRNAと切断活性を持つCas9タンパクの複合体を導入し,標的配列を二本鎖で切断する.DNAの二本鎖切断が起きると,切断末端の分解が始まる.ここで非相同末端結合で修復された場合,分解されたDNAが失くなるので,遺伝子のノックアウトにつながる.一方で,目的遺伝子を含んだドナーDNAを一緒に導入しておけば,相同組み換え修復によって,切断箇所に目的遺伝子が挿入されるので,遺伝子のノックインにつながる.

 

なぜZFNやTALENではなく,クリスパー・キャス9が用いられるのか?
→ ZFNやTALENの標的配列を認識するためにタンパク質を使う.一方,クリスパーはRNAを使う.後者の方が,作成が簡単だから.

spCas9のパムのGG配列は,ゲノム中であればどの遺伝子にも含まれるので.クリスパー・キャス9を使って全ての遺伝子に特異的にDNA二本鎖切断を介した変異導入が可能である.p.77

spCas9... 化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)のキャス9

 

実際の手順では,

KOしたい標的配列の近くにあるPAM配列を選ぶ.

→標的配列に相補的な(図3-4では標的配列の相補鎖に結合する相補RNA)ガイドRNAを作成する

→ガイドRNAとCas9の複合体(RNP)を細胞に導入.

→ターゲットを切断.

 

クリスパー・キャス9の切断特異性はPAM配列+標的配列であるが,標的配列に対するガイドRNAの作成は問題ない(おそらく化学合成).一方,PAM配列は5'-NGG-3'(spCas9)であり,この配列が標的配列の近傍にあればクリスパーで切断可能.Nは任意なので,実質GGの二塩基があればいい.

→最近は,apCas9-NGと呼ばれる変異体で,5'-NG-3'のPAMを認識・切断するクリスパーが開発された.よって,一塩基の「G」があれば,クリスパーが適用できる.

 

 

第5章のメモ

mRNAを入れることによってDNAからの転写過程を経ない翻訳のみで,素早くゲノム編集を行うことができ,mRNAは一定時間経つと分解されるので,酵素も一時的にしか存在しないことになる.

ZFNやTALENはmRNAで導入するらしい.一方,クリスパーはガイドRNAとタンパク質の複合体をvitroで形成させてから導入するのが主流らしい.

 

第6章

作成された生物で外来遺伝子を含まないことが確認されたものは遺伝子組み換えに当たらない.p.139

そうなんだ.だから,ノックアウトは遺伝子組み換えでない.

ノックアウト動物の話がこの後に続いていた.

例えば,マグロは神経質な性格で養殖が難しいらしい.そこで,なんかのカルシウムチャネルをKOして,比較的神経質でないマグロを作った笑.(刺激に対する回避行動が鈍くなるらしい)

 

第7章

HIVは,Tリンパ球の細胞膜上の受容体であるCD4とCCR5と呼ばれるタンパク質を介して感染することが知られている.

CD4(cluster of differentiation 4)陽性細胞は,CD8細胞(キラーT細胞など)のMHCに結合する*2

ゲノム編集では,CD4でなく,CCR5を破壊して,ウイルスに感染しない細胞を作るらしい.でもT細胞に入れても,増殖しなければ意味ないんじゃないかと思う.造血幹細胞に入れる図はあるけれど.

ちなみにこれはZFNでするらしい.これまでの実績から.

 

 乳がんに見られる遺伝的変異として,BRCA遺伝子の変異が知られている.

結局,BRCAって何してるんだろう?時間があれば調べたい.

ちなみに,Angelina JolieはBRCAの変異を持っていて,乳房を予防的に切除したらしい.

 

 PD-1遺伝子を破壊した免疫細胞の作成とこれを用いたがんゲノム編集治療の臨床試験が,米国と中国で2016年から進められている.

通常の細胞にはPD-L1(Programmed cell death-1 ligand-1)が発現していて,免疫細胞のPD-1と結合して活性化する.これにより,免疫細胞の攻撃性が弱まり,自己細胞は殺傷から逃れる.よく知らないので調べたい.

がん細胞はPD-L1を発現して,免疫細胞の攻撃から逃れている.ゲノム編集でPD-1を破壊すれば,がん細胞のPD-L1と結合できず,攻撃性を弱められないため,がん細胞を殺傷することができる.ただ,がん細胞だけを攻撃するわけではないから,他の正常細胞も攻撃してしまい,自己免疫疾患につながる.どうするのだろう?